複言語/継承語を考える

複言語/継承語を考える

子どもにとっての日本語を考え続けて ~みなさんと共有したい5つのポイント~

チーム・もっとつなぐ

私たち〈チーム・もっとつなぐ〉は、このサイト開設にいたるまで、親子で取り組めるポートフォリオの制作を目標に掲げ、ドイツ国内外でワークショップや講演会を実施し、多くの方々と共に子どもたちの「ことばの力」について考えてきました。そして、その活動を通じて、数多くの気づきと助言をいただき、また温かい声援に支えられて、ようやく『わたし語ポートフォリオ』を完成することができました。このサイトを通して同ポートフォリオを多くの方に知ってもらえることは、この上ない喜びです。ポートフォリオ作成プロジェクトに関わったメンバーは4名ですが、現在はそれに続くプロジェクトとして5名で活動しています。

 

「わたし語」は「トンボ玉」

同ポートフォリオのタイトルにある「わたし語」(奥村2019)は、ことばを使って生きている私たち一人ひとりがもっている「ことばの総体」を表しています。例えば、日常の日本語やニュースの日本語、在住地域の生活言語、これまでに学んだ外国語、旅先で覚えたことば、物語や映画で触れることば、アニメのキャラクターのことばなどが集まってできたものです。チームでは、この「わたし語」を「トンボ玉」に重ねています。「わたし語」は、「トンボ玉」のように複数の色が多様に混ざり合ってできているからです。

 

複言語環境での子育てをめぐって

こんな風に自分に問いかけたことはありませんか。

「日本に住んでいないのに、子どもは日本語を学ぶ必要があるんだろうか?」

「日本語ができることは、子どもにとってどんな意味があるの?」

「親である自分は子どもの日本語に何を望んでいるんだろう?」

「自分や周りの大人に何ができるんだろう?」

私たちは、この問いへの答えを探し求める中で、「複言語・複文化主義」という考え方とヨーロッパ全体の言語教育の共通参照枠(CEFR)の中に光を見出しました。そして、私たちなりにたどりついたまとめが「複言語キッズの〈わたし語〉を育てる5つのポイント」です。詳しくは、わたし語ポートフォリオ活用ガイドの中でも述べていますが、ここで簡単に紹介したいと思います。

 

みなさんと共有したい5つのポイント

 1つ目のポイントは、「子どもの〈わたし語〉を尊重する」です。子どもの「わたし語」は、親の「わたし語」とも、親が理想とする「わたし語」のあり方とも違うと認識し、その子ならではの「わたし語」を大切にし育んでいくということです。

それには、2つ目のポイントである「〈家族のことばの方針〉を考える」が欠かせません。複数の言語で子育てをするとき、「わたし語」を豊かに育てるには、家族や周りの大人の協力が必要です。「家族のことば」として、どんな言語をどう取り入れるのかについて、家族で方針を共有しましょう。そして、その方針は子どもの成長や生活の変化に応じて柔軟に対応していくことが大切です。

3つ目、4つ目は、「〈できること〉を見つける」、「〈見えにくい力〉にも目を向ける」です。日本国外で子育てしている日本語話者の親は、子どもの日本語を見るときについつい「できないこと」に目がいってしまいます。私たちチームも親として、例外ではありません。ですが、「できない」ことばかり指摘されていたら、大人でも「もっとやりたい」という気持ちは失せてしまいます。

「漢字の読み方を教えてもらいながらだったら、絵本や児童書を声に出して読むことができる」など、ちょっとした条件をつけて工夫することで、子どもたちの「日本語でできること」はどんどん増えていきます。他にも、「お皿をならべてくれる?」と日本語でお願いしたことを子どもがやってくれるなら、「日本語で聞く力」があるということです。春に道ばたの桜の木の下を親子で歩いているとき、子どもが「日本みたいだね」とつぶやいたとしましょう。たとえ、その一言が日本語ではなく現地のことばであったとしても、文化の相違や類似に「気づける」力に目をむけて、「ほんとだね。よく見てるね」と認め、それをことばで伝えてあげたいものです。こうした体験の積み重ねが子どもたちの自信につながっていきます。

また、「ことばの伸び」は、必ずしも難易度が上がることだけに表れるのではなく、そのことばで行動できる範囲の広がりにも表れます。「これもできるね」「あれもできるね」という親や周りの大人たちのポジティブなことばがけは、子どもの中の「日本語がもっとできるようになりたい」につながり、子どもたちが自分で「次にできるようになりたいこと」を見つけるステップになっていくでしょう。これは、子どもたちが自分で「わたし語」の中の日本語を育てていくのに欠かせないエネルギーです。

最後のポイントは「子どもの〈つなぐ力〉を信じる」です。小さい頃から複数の文化に自然に触れることで、子どもたちは自分なりに様々な「境界」を越え、人とつながり、社会とつながっていく力をやしなっています。そんな力はすぐには見えてこない場合もあるかもしれませんが、どんな小さなことにでも気づいてあげること、信じて待つことが大切です。

■「5つのポイント」のまとめ日本語ドイツ語英語

 

ひろがれ、『わたし語ポートフォリオ』の輪

私たち〈チーム・もっとつなぐ〉は、『わたし語ポートフォリオ』への取り組みを通して、ドイツにとどまらず、日本につながりをもつ世界中の「複言語キッズ」、そして日本語話者ではない家族メンバーも含む「複言語ファミリー」がつながってくれることを願っています。

(チーム・もっとつなぐ/勝部和花子・札谷緑・田川ひかり・松尾馨・三輪聖)

 

【参考文献】

奥村三菜子(2019)「欧州における継承日本語教育と欧州言語共通参照枠(CEFR)」近藤ブラウン妃美他編『親と子をつなぐ継承語教育―日本・外国にルーツを持つ子ども』第3部12章、くろしお出版. pp.175-189

奥村三菜子(2014)「CEFRという贈り物—子どもも大人も『気が楽になる』CEFRの4つのポイント―」糸永真帆他編『つなぐ—わたし・家族・日本語―(ドイツ発、海外に住む子どもたちの日本語習得・継承を考える冊子』巻頭エッセイ②、日本言語文化センター(現、日本文化普及センター)pp.18-29

福島青史(2014)「『わたしの家族』の言語政策」『つなぐ—わたし・家族・日本語—』巻頭エッセイ① pp.7-17

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