複言語を生きよう

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僕にとっての「日本」と「日本語」

ウィリアム・カイト
【William Keith】この夏休み、バイエルン南部に遊びに来ていたウィリアムさん。普段はヘッセン州で、日独ハーフの母親、ドイツ生まれの父親、2人の妹と暮らしています。幼稚園の頃から継承日本語教室に通っているという現在11年生のウィリアムさんに、ミュンヘン市内の美術館で、日本や日本語との関わりについて聞きました。(もっとつなぐ編集部)

僕は「クォーター」

家では、お母さんと一緒だったら、お父さんがいない時は日本語でしゃべります。妹たちはドイツ語で言い返すんですけど、僕は日本語をちょっと頑張りたい気持ちですから、できるだけ日本語でしゃべるようにしています。年を取ってきて日本語を習う「価値」を自覚し始めましたし、どういうんですかね、ちょっと「異文化」ですから、そういうつながりがあるのが嬉しいです。まだ完璧じゃないし、もっと経験を得たりしたいです。

小さい時は日本語でしゃべるのは、僕は四分の一、クォーターですので、あんまり好ましく思わなかったです。土曜日に日本語の学校[*註:継承日本語クラス]に行ってましたけど、自分の日本語はクラスの中でも一番悪かったですし、やっぱりクォーターだったから、ちょっと嫌で。それで、「日本語ならっても、どうすんの?」って気持ちでした。

それに、その時は自分から行きたい気持ちでは行ってませんでした。宿題とか多いですし、やっぱり日本語の教育は結構きびしいです。ドイツ人にとって宿題とか全然慣れてませんでしたし、もうなんか厳しいっ!(笑)楽しい思い出は、友だちに会えること、休み時間に遊ぶこと、それぐらいでしたね。

それでも日本は「自分の一部」

いま思い返して[*日本語クラスに通い続けて]よかったと思うことは、続けることです。やっぱり年を取ってくると、日本のいいところも、悪いところも結構ありますけど、それでも日本は「自分の一部」ですし、それがどういうことなのかを知りたいと思うようになりました。

最初に日本に行ったのは2011年で、まだ4歳の時でした。その時はあんまり自覚はなかったんですけど、2016年にまた日本に行って楽しくって。僕が日本語で話すと「上手、上手」って日本人に言わて、それが嬉しくて。

2024年の3月からこの夏休みまでカナダに家族で行っていました。トロントでしたけど、そこそこ日本人もいましたし、おいしい日本食が食べたい時は、インターネットで日本語で調べたり、そうやって日本人が営んでいるレストランとか見つけました。それもまた、日本語を習ってよかったことだと思います。

日本と「つながる」ような勉強

勉強は、成果が出る時が楽しいです。例えば、新しい言葉を習うこと自体は楽しくないですけど、ちゃんと正確に使えるようになって伝わった時は楽しいですし、日本人の友だちと話す時も楽しいです。そこだと日本語でしか通じないので、どうにか日本語で話すんですが、具体的な話になるとちょっと通じにくい。やっぱりまだ日本語が足りてない。そういう気持ちがしています。

なので、音楽を聴くとか、アニメの話し方とかはあんまりマネしない方がいいと思いますが、言葉とかは普通に使えると思いますし、やっぱりちゃんとどこか日本とつながるように勉強するようにしています。

日本語の勉強で大変なのは、やっぱり漢字もありますし、僕は日本語能力試験の一級[*JLPT のN1]を目指しているんですけど、使う用語とか全然日常的じゃない日本語で、それを習ってもあんまり使わないし全然聞かない言い方とかも出てきますし、習うきっかけを感じない。そうすると難しくなります。

漢字はそんなに得意じゃないんですけど、やっぱり勉強する方がいいと思います。僕はあんまり「書き」はしないんで、せめて読めるように毎週毎週勉強してます。でも、「えっ、これって使う?」と思う漢字もあります。おばあちゃんと一緒に座って勉強して、分からないところを教えてもらってます。時々「これ、できないの!」ってしかられます。(笑)

でも、やっぱり「自分の中の日本」っていう、そういうつながりを持って、自分のこととか、家族のこととか知りたいですし、日本に行った時にはもうちょっとスムーズにできるようになったらいいな、という考えを持っていれば[*漢字の勉強も]順調に行くと思います。それに、政治用語とか難しいですし、日本の政治とか、僕、あんまり分かってないです。漢字を習えば、もっとそういうのも分かるようになりますし、自分の好きな分野だったら、もっと楽しく習えます。やっぱり日本にいる日本の友だちと話していて、ああ、やっぱりこれ通じてないなと気づくと、うん、やっぱりもうちょっと肝心なところで、ちゃんと議論とかできるようになりたいと思います。

「日本人だな」と思う時

日本に行った時に必ずするのは、友だちとのカラオケです。日本のカラオケで一番楽しいのは「採点」。一番点数が取れるのは、ちょっと恥ずかしいですけど、『君が代』です。結構短いですし、単調な曲ですから。僕は日本語以外にも音楽にも興味があって、雅楽も面白いと思いますし、それに『君が代』が作曲された当時は明治時代で、西洋と日本とを一緒にした曲ですよね。カラオケで他によく歌うのはJ-POP。それを歌わないと、あんまり盛り上がりませんし。(笑)

日本語でしかうまく言えないのは、「面倒くさい」っていう言葉。これは、本当にドイツ語や英語には全然ないと思います。「面倒くさい」って、やることがたくさんあるし、でも、やりたくないし…、そういうのを全部まぜた言葉ですよね。ドイツ語や英語では、その状態を一つの言葉では表せないと思います。面倒くさいことと言えば、やっぱり宿題。(笑)あとは、日本語の文法です。いろんなことをもうちょっと具体的に表したいとき、例えば、「~をやってしまった」とか、そういうのはドイツ語でも英語でも文法では表現できないので、ちょっと面倒くさいです。

そんな日本語でしか表現できないことがあると、自分は「日本人だな」と思います。それと日本人って丁寧で礼儀がいいですよね。僕もお辞儀をしたり、敬語で話したりするときは、「日本人っぽいかなあ」と思います。あとドイツでは、朝と夜は冷たいもの[*チーズやハムを載せたパンなど冷菜]を食べますが、僕は日本の朝食とか温かいご飯がすきです。時々おばあちゃんにお願いしてご飯を作ってもらうとか、あとは前の日の夜ごはんをあっためるとか、やっぱり冷たいのは好きじゃないです。

それと、血のつながりもありますし、もう日本の国籍はないんですけど、子どもの時には『ドラえもん』とか見ていましたし、ある程度「日本人みたい」に育っていましたし、ちょっとだけは「日本人かな」って。自分ではそう思ってますし、周りからも、そう思われたいです。

「ドイツっぽいな」と感じる時

日本の社会って、ルールがたくさんありますよね。僕が思ういいルールはちゃんと守ってます。でも、「このルールは、なんか意味ないんじゃない?」って思う時は守りません。例えば、友だちと一緒にいる時にちょっと大きい声で話すとか、冗談を言ったりとか。日本人ってちょっと真面目で、ふざけたり全然しませんよね。例えば、ハーフの友だちと一緒に日本にいた時に、エレベーターの中に他の同い年ぐらいの高校生がいて、ちょっと声を出してドイツ語で冗談を言ったら、その高校生も笑っていました。空気をもうちょっとやわらかくして、遊んじゃってもいいと思います。僕はいつも旅行として日本に行ってるだけですから、そういうことしちゃう。(笑)あとは、刺身とか生魚が苦手です。味もあんまり好きじゃないですし、あの触感も…。寿司も食べないです。

ドイツにいるハーフの友だちと似たようなことを話します。例えば、ドイツの親の行動とか結構似ていますし、日本人とドイツ人の夫婦のあいだとか、そういう経験とかお互い似てるから、よく話題になります。

おばあちゃんと僕、そして僕の将来

僕が日本語を勉強しているのを一番喜んでくれているのは、おばあちゃんだと思います。もう60年ぐらいドイツに住んでますし、孫まで「母国語」を話していますし。おばあちゃんは僕と日本語でしゃべれて嬉しいとか、そういうことはあんまり言わないんですけど、普通に喜んでいると思います。やっぱり日本人って、そういう感情とか、あんまり表に出さないですよね。

おばあちゃんとは子どもの時から日本語で話してます。時々ことばが分からなかったら、ドイツ語とかで言っちゃいますけど、おばあちゃんもドイツ語と日本語と通訳をしていましたし、僕よりも長くドイツに住んでいますし、そうやって会話しています。

将来、僕が家族を持ったら、自分の子どもには、ちゃんと日本語を伝えるようにしたいです!でも日本で生活するのはいやです。給料は低いし、ちょっと「オワコン化」していますし、やっぱり社会が古い[*保守的]という感じがします。なので、日本で暮らして仕事をするのは、今はちょっと想像できないです。

それでも僕は日本には旅行でこれからも行きたいですし、そこで日本のことを家族に伝えたいと思います。これはちょっと聞いただけの話なんですけど、カナダとかアメリカでは、アジア系の人は同じアジア系と交際するのではなく、白人と交際するのがよいみたいで、それが問題視されているそうです。自分のアイデンティティを大事にしていない、というか、社会が東洋人にちょっと差別的だというのが関わっているみたいです。

もし僕の結婚する人が日本と全く関係なかったら、子どもは八分の一日本人となるかもしれません。子どもがちゃんと日本語ができるようになったら、僕のおばあちゃんが、ひいおばあちゃんになって、また喜ぶかもしれませんね。

  最後に・・・

日本語や日本の文化は面白いと思いますし、やっぱり僕、もっと知りたいです。もうちょっと日本語をよくしたいですし、日本の社会にはいいところもありますし、僕が思うには悪いところもありますし、まあ、それも全て含めて、僕も「日本人みたい」に日本文化と関わっていきたいと思います。

インタビュー 実施/2024年8月18日、ピナコテーク・デア・モダーンにて
写真/2019年夏、しながわ水族館にて
ウィリアムさんが6才の頃(2013年)、「家族のことば」について、お母さまにインタビューに応えてもらいました。その記事はこちらからご覧いただけます。

 


ウィリアム・カイトWilliam Keith)さん

母、独日ハーフ。父、ドイツ出身。三人兄妹の一番上。幼稚園の頃から地域の継承日本語教室に通う。幼稚園から小学4年生まで英独バイリンガル私立校に通い、5年生からギムナジウムへ。10年生の終わりに4ヶ月半、家族でカナダに滞在。音楽が大好きで、チェロとピアノを練習中。2024年夏に受験した日本語能力検定試験(JLPT)一級(N1)に無事合格!好きな食べ物はうどん。

【3つのリレー質問】

① 気に入っている「日本語の言葉や表現、漢字など文字」は?

「独」。まず意味がインデペンデンスで、それが自分に合いますし、「ドイツ」の漢字の当て字[*独逸]ですから。

② 日本で人に言われて「嬉しいこと」と「いやなこと」は?

嫌なことは、遊園地とかでジェットコースターとかに乗る時に「こうしてください」とか言われて、周りがうるさくて僕が分からないようにしていると、ちょっと下手な英語で話しかけられること。その人の英語の方が分かりませんし、僕は見た目はやっぱり日本人には見えませんから、せっかく苦労して日本語を勉強してるのに、そういう状況は嫌です。逆に、日本人は日本語のレベルに関係なく、よく「日本語、上手ですね」って言うんですけど、そういう時、僕が「いいえ、まだまだです」と返事をすると、「あ、まじめだな~」と言われます。そういうのが、嬉しいです。僕はクォーターとしては、結構日本語がしゃべれて上手だって分かっているので、単なる「社交辞令」なのかもしれないですが、「まじめさ」を認めてもらえて嬉しいです。

③「自分の中の日本語」を色や形、一つの言葉にたとえると?

「亡霊みたいなもの」。僕にとって日本語はもっとよく知りたいものなので、「未発見のもの」だから、ぼわ~んと向こうにあって、まだはっきり見えないもの。

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