2026年1月25日
今回は、海外で暮らす日本にルーツを持つ子どもたちを対象としたオンライン日本語教室「にほんごTOIRO」を主宰されている上田真依子さんに、ご家庭ですぐにできる「日本語あそび」をご紹介いただきました。
「子どもの日本語教育、どこから始めたらいいか分からない」という声を、これまで何度も耳にしてきました。
海外で暮らす家庭にとって、「日本語をどう継承していくか」は大きなテーマです。現地語が生活の中心となる中、「日本語や日本文化を子どもに伝えたい」と思っても、相談できる相手がいなかったり、情報が分散していたり…気づけば、一人で抱え込んでしまうことも少なくありません。
私自身も海外で子どもを育てる中で、現地語の波にのまれそうになりながら「日本語も何とか残していきたい」と思い、手探りで試行錯誤してきました。同じように複数のことばや文化のあいだで子どもと向き合っている人たちが、肩の力を抜いて気持ちを共有できる場があったらいい。そうした思いから、今はオンラインで幼い子どもたちやそのご家庭と、日本語のレッスンや交流の時間を通して、日本語や日本文化に触れられる場づくりを続けています。
幼児期は「ことばの根っこ」を育てる時期
私自身、海外で子育てを続ける中で強く実感しているのは、幼児期こそが「ことばの根っこ」を育てる重要な時期だということです。
この時期に大切なのは、日本語を教えることよりも「日本語で過ごす時間」を積み重ねること。特に幼児期は机に向かっての勉強よりも、体や五感を使った遊びを通して、日本語や日本文化に触れることがとても効果的だと感じています。
普段、オンラインで子どもたちと日本語で関わるときにも、「遊ぶように学ぶにほんご」を大切にしながら、遊びの中でことばやアイデンティティが自然に育つような工夫を重ねています。今回はそうした実践の中から、家庭でもすぐに取り入れられる日本語あそびを三つご紹介します。
家庭でできる小さな日本語あそび
① からだの名前ゲーム
【対 象】3歳頃〜
【準備物】ワークシート、はさみ、テープなど
【時 間】5〜15分程度
ワークシートに描かれた体のパーツを切り取り、実際に体に貼って遊ぶアクティビティです。カードを点線に沿って切り取ったら、「これはどこかな?」と確認しながらテープで体に貼っていきます。大人と子どもで貼り合いっこをすると、さらに盛り上がります。
「背中はどこ?」「ここに足を貼ってみよう」など声をかけ合って遊ぶうちに、自然とことばに触れられるだけでなく、やりとりも深まります。家庭で使っている別のことばで言った後に、「日本語ではこう言うんだね」と重ねて伝えると、複数のことばが同じ体の場所を指していることにも気付きやすくなります。

② どんな味かな?クイズ
【対 象】4歳頃〜
【準備物】ワークシート、スプーン、目かくし、少量の食べ物や飲み物(例:ジャム(あまい)、レモン汁(すっぱい)、しょうゆ(しょっぱい)など)
【時 間】10〜15分程度
味覚をテーマにした日本語あそびです。ワークシートには「甘い」「辛い」「苦い」「酸っぱい」「塩辛い」の5種類の味カードがあります。基本の遊び方は、子どもが目かくしをし、大人がスプーンで少しだけ何かを食べさせます。子どもはそれがどんな味かを考え、カードの中から選びます。
「これは何の味かな?」「すっぱい?」と問いかけながら進めたり、食事の時間に「この〇〇はどんな味?」とカードを見せながら話すのもおすすめです。カードには、日本語とあわせて家庭で使うほかのことばも書き込んでおくと、複数のことばで同じ味を表現して遊ぶことができます。

③ こすり出しアート
【対 象】4歳頃〜
【準備物】ワークシート、鉛筆または色鉛筆、コイン
【時 間】5〜15分程度
コインを紙の下に置き、上から色鉛筆でこすると模様が浮かび上がるアート活動です。「これはどこの国のお金?」「5円玉には穴があるね」と話しながら行うと、文化への興味も自然と広がりやすくなります。ご家庭に眠っている硬貨があれば、ぜひ試してみてください。
日本のお金だけでなく、家族のルーツのある国や旅先のお金もこすり出してみると、「国が変わると絵や文字、ことばも変わるんだ」という気付きにつながります。
おわりに
海外での子どもの日本語教育は、どうしても家庭の中で日本語を担っている人が「私がやらなきゃ」と背負い込みすぎてしまうことがあります。けれど本来、日本語で過ごす時間は、家族みんなで協力して楽しむプロジェクトのようなものだと感じています。
子どもが大きくなった時に「あの頃のにほんごタイム、楽しかったね」と笑い合える。そうした温かい時間を積み重ねていくことが、きっと一番の「継承」なのだと私は考えています。
【リンク】
上田 真依子(UETA Maiko)
ドイツ在住。日本では大学で臨床心理学を専攻したのち、小学校教員として勤務。その後、日本語教師や大学での留学生支援などを経て、ドイツ移住後の2020年に幼児向けオンライン日本語教室「にほんごTOIRO」を立ち上げた。現在はヨーロッパや北米を中心とした60家庭以上が在籍している。少人数レッスン・家庭での「にほんごタイム」・オンラインコミュニティを組み合わせた「親子伴走型」の教室づくりに取り組みながら、小学生の息子を育てる一人の親として、自身も日々試行錯誤を続けている。
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「にほんごTOIRO」は、「あそぶように学ぶ日本語」をモットーに、3歳から小学校低学年までの少人数クラスを中心に、日本語のことばだけでなく、日本の文化や自分のルーツへの理解が育つことを目指しています。週1回のオンラインレッスンと家庭での「にほんごタイム」が互いに行き来しながら続いていくようにデザインされた、親子伴走型の学びの場です。