ことばと本

ことばと本

新たな扉が開かれる

山田恵子

娘をドイツで妊娠後、私の本へ対する気持ちはとても変わりました。

私の子供時代は本を読むよりも外で遊んだり体を動かしたりする事が好きでした。圧倒的に本と触れ合う機会は少なく、それは大人になってからも変わらず、読書好きな姉と比べたら今まで読んだ本の冊数など比べ物にならないほど少ないと思います。それがドイツで娘を妊娠後、この子が生きていく上で日本語が話せることは全く損になることはないし、むしろ何か一つでも多くの言語を話せる事は自信に繋がり他文化への理解力や許容力が養われると思い、妊娠中から絵本を読むことを始めました。それからというもの、「絵本って短いお話の中に色々詰め込まれていて何て楽しいんだろう」と絵本の世界に吸い込まれていき、まだお腹にいる娘へ一日に何十冊と読むこともありました。

出産後、娘に話すことばについて夫と話した際に夫も私の意見に賛同してくれたので、家で娘と話す時は各々の母国語で話すようにし、フランスへ帰る時は古本屋へ必ず行き、絵本や夫が子供の頃に読んでいた漫画を買い、娘へ読み聞かせをしています。私はというと日本へ一時帰国の際には娘と足繁く図書館に通い、絵本の読み聞かせや紙芝居を見せたりと彼女が気に入った絵本があれば、購入しドイツへ持ち帰るようにしています。実際、娘は私が独断で選んだ絵本が好きではないこともあり、一度しか読まなかったということもあるので、出来る限り興味のある本を買うようにしています。最近ではドイツの子供達に紙芝居が人気で、KAMISHIBAIという言葉が浸透しており、近所の図書館でも司書の方が子供達へ紙芝居を読んで聞かせています。日本の文化がこうして広まり、子供の笑顔を見られるのは嬉しい気持ちになります。

絵本も勿論良いのですが、私達は字がまだそんなに読めない娘に一ページ上に沢山絵が載っている『ドラえもん』や『おばけのQ太郎』など家族向けの漫画も良いと思い、その読み聞かせをしています。実際、一人で見て想像を膨らませていますし、小さくてお話が沢山載っている漫画は持ち運びに便利で外出の時にお勧めです。

娘は一歳を過ぎた頃に『魔笛』に魅了され、約二年間ほぼ毎晩同じ長文の絵本を繰り返し読み続けました。そして娘が三歳になる頃には日本とドイツで魔笛の子供オペラを見に行く事が出来たのです。これは絵本からの世界が凄く広がり、良い経験になりました。同じ絵本を毎晩読むのは大変で、時折同じ題材を扱っている異なる絵本を読み、今ではドイツ語本と日本語本を合わせると合計九冊にも及びますが、その事があったからこそ、現在五歳になる娘は日本語、フランス語とドイツ語を話せることにとても自信をもっており、自分の強みと感じています。そして、私は彼女が居たからこそ出来た経験を通して現在の仕事に就き、彼女にもっと母親以外のひとからの日本語にも触れてほしいと願うようになりました。その思いが現在の読み聞かせ会という場を作るきっかけとなったのです。夫と娘が時折通っているフランス語の読み聞かせ会にも一度、私と娘の二人で参加したこともありますがアットホームで新たな出会いが生まれ楽しかったです。私が子供の頃に読んでいた数冊の絵本を娘に引き継ぎ、それがきっかけで話が弾むこともあります。

絵本は子供との繋がりをより深め、想像力と言語発達を楽しく促すとっても素晴らしい物だと私は気付きました。皆さんも、絵本によって導かれる新たな扉を開いてみませんか?

(挿入絵本:小西英子・作『パパゲーノとパパゲーナ』福音館書店)


山田恵子(YAMADA keiko)さん

日本にてフランス人の夫と出会い、彼の転職を機にドイツへ移住。今年で移住10年目。1児の母。現在、現地の保育園に職業訓練生として勤務し、月1回、日本にルーツを持つ幼児へ日本語絵本の読み聞かせや工作を実施。

【2つのリレー質問】

① ずばり一言、本は「私」にとって?

気付きを与えてくれるもの

② 記憶に鮮明に残っている子ども時代の一冊は?

ズッコケ三人組』は小学生の頃に読んで、友達と内容について話していた覚えがあります。ほかに、私が幼少期に読んでいた絵本で娘へとひきついだ絵本である『わたしのワンピース』と『まこちゃんのおたんじょうび』。(絵と文=にしまきかやこ  こぐま社)

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