ことばと本

ことばと本

「多言語オリジナル絵本」が広げてくれる母語・継承語学習の輪

京都女子大学国際交流センター助教授 滑川恵理子

【NAMEKAWA Eriko】気持ちよく晴れ上がった五月の週末、私はあるイベントの会場に向かっていました。それは小さな子どもをもつ多文化ファミリーのためのイベントで、その日のテーマは「中国を知ろう」、文化紹介や絵本の読み聞かせがあるといいます。私は一参加者ですが、会場が近づくにつれ緊張してきました。私が仲間たちと製作したオリジナルの絵本の読み聞かせがあるからです。とは言っても、私や仲間たちとは全く面識のない、若い中国人留学生の方が、私たちが作った中国語と日本語の絵本「ヤンヤンちゃんとおにいちゃん」の読み聞かせをするというのです。まさに「手塩にかけた娘を嫁に出す」の心境です。その若い中国人留学生の方は半年ほど前に同じ会場で行われたトークイベントで、私たちがオリジナルの絵本を紹介したときzoom参加してくださったそうです。

私たちの活動とは、日本に住む外国出身のお父さんお母さんの子どもの頃のエピソードなどをもとに、親御さんの母語と日本語の二言語によるオリジナルの絵本を作り、webサイトで公開するというものです。関西地域にある、外国につながる子どもと親御さんのためのボランティアによる支援教室を拠点としています。是非私たちのサイト「たげんごオリジナルえほん」を検索してみてください。これまで、中国出身のお母さん、メキシコ出身のお母さん、シリア出身の家族の物語を題材に二言語音声付動画を製作、公開しています。自由にページをめくって読み聞かせが楽しめる「見開き絵本」もあります。

中国語と日本語による読み聞かせが始まりました。二つの言語を交互に読めるように作ってあるのが私たちのポリシーです。日本語も中国人留学生の方が読みましたが、張りのある声で明るく読み上げてくれました。聴衆の小さな子どもたちへのアピールも上手です。「ひとたび世に出したら本は読者のもの」と言いますが、「我が子の独り立ち」に立ち会ったような誇らしい気持ちになりました。

終わってから留学生のみなさんと話をしました。中国語の絵本は昔話ならいろいろあるけれど、これは今の時代を生きている普通の人の物語、特に日本で生まれて親の言語や文化に親しむ機会がない子どもたちのためにこのような絵本が必要、親の子どもの頃などを知ることができる、私たちも子どもの頃を思い出す等々…若いみなさんが語ってくれたことは私たちの活動の意図そのものでした。

これからも「自慢の娘」が多くの手に渡って花咲き、子どもたちの母語・継承語学習の輪が広がっていくことを楽しみにしています。


滑川恵理子(NAMEKAWA Eriko)さん

神奈川県出身。30歳代で中国語通訳を目指して猛勉強するものの挫折。そんなある日「中国語ができるなら中国から来た中学生に日本語を教えてほしい」と教育委員会の人に頼まれたことから、日本語指導協力者および地域のボランティアとして外国から来た子どもたちとその家族の支援に携わる。その後大学院に進学、博士号を取得後、2020年から京都女子大学で日本語教師課程を担当している。2019年から「たげんごオリジナルえほん」の活動を展開中。https://tagengo-orijinal-ehon.com/

【2つのリレー質問】

① ずばり一言、本は「私」にとって?

人と人をつないでくれるもの

② 記憶に鮮明に残っている子ども時代の一冊は?

宮沢賢治の詩『雨ニモマケズ』 小6くらいで暗唱して今でも言えます。

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