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ことばと本

お家でできる おしゃべり鑑賞会

ヒンツェ 祐紀

美術館に行ったけど、うちに帰ったらどんな作品をみたかあまり覚えていない・・・なんて経験があるのは私だけでしょうか。(笑) グループでアート作品をみて、気づいたことや感じたことを話しながら作品を味わおう!という試みが「おしゃべり鑑賞会(以降、鑑賞会)」です。みんなで絵をみると世界が広がる?!

今回はそんな鑑賞会のようすと魅力を紹介します。

 

🎨まずは自分の目でじっくりみる!

 この鑑賞会では、まず作品情報や知識に頼らないでみます。自分の目でみて語り合いながら鑑賞すると、作品がぐっと身近に感じられ、心に残ります。

小中学生のオンラインでの鑑賞会のようすです。「まずは 1 分ぐらいひとりで隅々までみてみましょう」という声かけでスタートします。

よかったら、いっしょにやってみてください。なんとなくではなく意識して「みる」のがポイント。意外とたくさんの発見がありますよ。

 

🎨どこからそう思う?

 次はシェアタイムです。気づいたことや考えたこと、疑問など、とにかく何でも話していきます。難しいことじゃなくていいんです。子どもたちからは「男の人がギターを弾いてる」「びっくりしてる顔だと思う」「靴が汚い」「なぜか玉ねぎがある」など、次々に挙がりました。

絵の中のどこからそう思ったのかも考えていきます。「びっくりしていると思ったのは絵のどこから?」「うーん、、、目と口を大きく開けてるから」という感じで共有していきます。すると、「たしかに!」と共感したり、「瞼が下がってるし、それほど目を見開いていない・・・」と直感と違うところも出てきました。子どもたちが作品をみる姿は真剣そのもの。これまでの経験や身体的な感覚も総動員して話しています。

さらに、表情を真似したり、画面から少し離れたりしてみているうちに、「歌っていると思ったけど、もしかし たら口パクかもしれない」という新たな解釈も出てきました。

 

〇見方が変わっていくおもしろさ

 子どもたちに鑑賞会のどんなところが楽しいのか尋ねると、他の人の意見を聴くことだと言います。「なるほど〜!」という呟きや聴いたことを踏まえて話すところからも、その関心の高さが感じられます。

多様な見方や感じ方に対する新鮮な驚きに加えて、それぞれのまなざしを重ねていくことで、自分もみんなも見方も変わり、作品の新たな世界が立ち上がってくるおもしろさがあります。だから、思わず話したくなる!そして、もっと聴きたくなるんじゃないかと思います。

〇一味違ったコミュニケーションが楽しめる
 写真は 10 代、20 代、30 代の友人とうちで絵本の表紙を鑑賞したときのものです。一体何をするの?と不思議そうな顔をしていたのは最初だけ。蛇と靴を履いている人の人物像を巡って話が尽きず、楽しい時間になりました。友人の一人は、今の自分の価値観がわかった気がすると話してくれました。

10 代半ば以上の鑑賞会では、よく人生観や社会的なことに話しが及びます。色から希望を、余白から変化できる可能性を、一本の線から自立について語ってくれた人もいました。アート作品を介して話すと自然と深い話になります。お互いのことをもっと知ることができるし、年齢問わずフラットにやりとりできるのも魅力の一つです。

 

🎨芸術の秋!美術館やご自宅で身近な人とぜひやってみてください

まずは気になる作品や好きな絵から始めてみるといいですよ。教室で取り入れたい方には鈴木有紀さんの著書『教えない授業』(リンクはこちら)がおすすめです。幅広い現場での具体的な実践事例が紹介されています。

 

【写真提供】筆者(上から順に)

1:エドゥアール・マネ《スペインの歌手》1860年 メトロポリタン美術館

2:「笑顔の蛇(人)ほど毒がある!?」と話しているところ

 

ヒンツェ 祐紀 (HINTZE Yuki) 

 2017年からドイツ在住。日本語講師。Atelier Irotabi Kids 主宰。養護教諭を目指した学生時代、十数年の企業勤務を経て、自由創作の子どものアトリエを開く。興味の赴くままに歩んできて、気がつけばいまここに。ケルン日本文化会館や大学で日本語講師を務めている。  画像は日本語クラスのDavid さん作

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